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山科疏水のサクラ並木におけるてんぐ巣(テングス)病被害状況について
以下、「山中勝次理事(京都菌類研究所所長)による山科疏水のサクラ樹勢衰退調査報告」からの抜粋です。

 基本情報
 調査場所:

 京都市山科区安朱馬場ノ西町「安朱橋」から同区御陵山ノ谷町第一疏水第2トンネル入口に至る山科疏水の2.5kmを14区間に分け、疏水の両岸に成立するサクラ類を調査した。

 調査樹種および調査本数:

 樹種および本数はソメイヨシノ111個体(56.3%)、ヤマザクラ64個体(32.5%)、オオシマザクラ12個体(6.1%)、サトザクラ9個体(4.6%)、エドヒガン1個体(0.5%)の計197個体である。樹齢は10年-50数年生。

 調査日時:

 2003年3月28日から7月2日

 調査項目と調査方法
 
テングス病罹病枝

 樹勢衰退状況の調査:

 全調査木について樹幹の胸高直径(胴周囲)、樹高、樹冠径(長径・短径)、病害(子のう菌類および木材腐朽菌類)の発生位置と程度、切除された枝の直径・数、折損・枯損枝の数を調査した。また、写真撮影により、満開時期に各個体の開花状況を調査した。
  一方、新葉が完全に展開した初夏に、ランダム抽出した170個体について、以下の「樹勢評価基準」の各項目評価点の合計点にもとづき、樹勢をA,B,C,D,Eの5ランクに分類した。


 微生物害(病害)調査

(1)子のう菌類による病害調査
  てんぐ巣病、枝がんしゅ病などいずれの病害も、未発生(0)、1-2本の枝が罹病(1)、2-3本の枝が罹病(2)、4-5本の枝または大枝全体が罹病(3)、樹冠全体が罹病(4)の5段階に分類した。

(2)担子菌類(木材腐朽菌類)による腐朽病害
  ベッコウタケ、コフキサルノコシカケなどの木材腐朽菌は子実体発生位置と子実体数を記録した。

(左写真はテングス病罹病枝)
樹勢評価基準

 調査結果 : 樹勢衰退状況
 調査区別・樹種別の樹勢健全度の総括表を「表-1」に示す。

 ほぼ健全としてAにランクされた個体は全体の28.8%となり、いくつかの問題はあるはおおむね良好と評価されるBランクは25.3%であった。一方、最悪評価であるEランクは11.2%で、かなり衰退していると評価されたDランクは21.2%であった。Eランクに評価された個体はここ2・3年のうちに枯死する可能性のある重篤な衰退状況にあるもので、Dランクも衰退が著しく樹勢の回復は望めないと判断された個体である。したがって、DとEを合わせると調査区全体の32.4%は樹勢衰退の著しい個体ということができる。

 調査区別の健全度で見ると、1区から4区まではDとEを合わせた本数比率がそれぞれ50.0%、75.0%、 58.3%、61.6%といずれも半数を超えている。とくに2区では12個体とはいえ75%という高率になっている。これらの樹勢衰退個体は集中もしくは連続している。1-4の調査区のDおよびEに該当する個体のすべてがソメイヨシノである。後述するように1区から4区まではてんぐ巣病による罹病個体がきわめて多く、激しい病徴を伴って樹勢が著しく衰退している個体が多い。このためこれらの調査区の樹勢衰退は、古くから感染したてんぐ巣病が一次要因になっている可能性が高い。樹勢の衰退した個体のほとんどが局地的に集中したり連続していることは、継続的なてんぐ巣病の感染と罹患部の拡大、それによる樹勢の衰退という履歴を示している。

 一方、5-11区はほぼ良好もしくは健全な個体が80%以上を占める。6区ではてんぐ巣病罹病個体が54.5%であるにもかかわらず概して良好もしくは健全と評価されるのは、感染初期であったり罹病程度が軽微なものが多いからである。このような個体は早急な罹患枝の切除によって病徴の進行を食い止め、近接個体への感染を防ぐ必要がある。12-14区ではDおよびEランクがそれぞれ41.7%、30%、40%とやや高率となる。しかし、1-4区と異なるのは樹勢の衰退した個体が集中・連続ではなく、分散する傾向があること、ソメイヨシノばかりではなくヤマザクラも相当数が衰退していることである。12-14区のDおよびEランクに該当する個体のうちの58.8%がヤマザクラで、残り41.2%がソメイヨシノとなっており、1-4区の衰退状況とは明らかに異なる。

 これら3つの調査区のEにランクされたソメイヨシノ4本のうち3本はてんぐ巣病の罹病個体であるが、著しく重篤な病徴とはいえず、1本は非罹病個体である。12-14区のD、Eランクのヤマザクラはごく軽度な1本を除きすべてがてんぐ巣病の非罹病個体である。これらのことから、12-14区の樹勢衰退個体の多くが病害に起因した衰退ではなく別の要因で衰弱したことが考えられる。樹勢衰退個体がおおむね分散していることから、局所的な土壌環境の悪化や他樹種の高木による被圧などに起因した衰退と考えられる。

 樹種別の健全度「表-2」で見ると、ソメイヨシノの38.1%が最悪のEランクかそれの予備軍であるDランクに属する。この原因は後述するようにてんぐ巣病罹病による樹勢衰退である。健全またはほぼ良好な個体は約半数の46.7%にすぎない。ヤマザクラも32.6%がDもしくはEであり、この原因はてんぐ巣病よりも環境要因に基づく樹勢衰退と考えられる。オオシマザクラ、サトザクラ、エドヒガンはいずれもD、Eに評価される個体はなく、A、Bの健全またはほぼ良好な個体が90%以上を占める。

 調査結果 : 子のう菌類による病害
 てんぐ巣病:

 てんぐ巣病はTaphrina wiesneriによる病害であるが、サクラ類のなかでも圧倒的にソメイヨシノに発生しやすい。調査地域全体では197個体の35.0%がてんぐ巣病に罹病していた。罹病個体は特定区域に集中する傾向を示し、1区では16個体中15個体(93.8%)が、4区では14個体中9個体(64.3%)が、6区では11個体中6個体(54.5%)が感染・罹病していた。一方、11区では感染木はなく、9区では14個体中の1本(7.1%)が罹病しているのみで、罹病程度に著しい地域差が見られた。とりわけ、1区では隣接して生育するソメイヨシノのすべてが罹病しており、4区では疏水左岸側に並立するソメイヨシノ6 本はすべて激しい病徴を示している。このことはてんぐ巣病が感染個体から周辺の個体へ感染し、特定地域の罹病密度を高めていることを示している。

 罹病個体のほとんどがソメイヨシノで、罹病木69個体中65個体(94.2%)がソメイヨシノであり、ヤマザクラが2個体、サトザクラが1個体、オオシマザクラが1個体であった。調査区域中のソメイヨシノの総数にたいする罹病率は62.2%ときわめて高率となった。先に述べたように1-4区のソメイヨシノのてんぐ巣病罹病個体はかなり古くから感染していたものと考えられ、他の枝への感染と罹患部の拡大、小枝から大枝への枯死の進行、その結果としての樹勢の衰退を繰り返してきたものである。さらに隣接する他の個体への感染により同時並行的な集団樹勢衰退を招いてきたものであろう。感染初期の罹患部切除を怠ってきた結果を示すものであり、このままではこのエリアのソメイヨシノの多くが枯死する可能性がきわめて高い。てんぐ巣病の重篤な罹病個体でも小枝や大枝の枯死にいたっていないものは、見かけの葉量は多く、かならずしも樹勢の健全度では最悪のEにランクされているわけではなく、DまたはCにランクされていることが多い。そのためこれらの個体ではなおさらてんぐ巣病の罹患部の切除処理と抗菌・防菌塗布剤による事後処置が急がれる。とりわけ問題なのは20年生未満の若い個体の多くがてんぐ巣病に罹病しており、てんぐ巣病の被害が調査地域全体におよびつつある徴候を示すことである。


 サクラ枝がんしゅ病(仮称):省略
 担子菌類による病害:省略

 考 察
 サクラ類の衰退要因:

 樹木はその生育過程でさまざまなストレスを受け、ストレスの程度や継続性によって樹勢が衰退する。サクラの樹勢を衰退させるストレスは、環境に起因するもの、生物に起因するもの、人為的要因に大別される。これらのストレスは単独で生じた場合でも他のストレスを誘発することが普通であり、同時に複数のストレスを被る場合と同様に、樹体には各種のストレスが複合的・相乗的に作用し、一定の許容範囲を超えると樹体を衰退させ、さらには枯死に導くことが多い。

 樹体にあたえるストレスのうち環境要因としては、土壌水分、被圧、踏圧、風雪折損、大気汚染などがある。土壌水分の過多と滞留は根腐れの原因となり、ナラタケ菌の侵入を誘発し、ひいては担子菌類の腐朽を進展させる。40-50年間健全に生育してきたヤマザクラがここ数年で枯損してしまった場合には土壌水分が関与している可能性が高い。

 調査地域にはクヌギやコナラなどの隣接高木により被圧された個体が多数見られ、いずれも樹冠全体や樹冠の半分の枝が枯れ上がってしまったものが多い。若齢のサクラ類で樹冠全体が被圧されて枯れ枝の多い個体のほとんどは、隣接する広葉樹高木に近すぎる位置に植栽されたからである。隣接広葉樹高木とは十分に間隔をあけて植栽する必要がある。

 山科疎水のサクラが程度の差はあれ、ほとんど樹勢衰退を示している原因のひとつは通行者の踏圧が多分に関与していると考えられる。もともと歩道の脇に植えられているため、地下の根の半分近くは歩道の下に入り込んでいると考えてよい。そこを散歩やジョギングで多数の人々が通行するために、根系が受ける踏圧の影響は大きいであろう。

 一方、ストレスの生物的要因としては、微生物による病害、昆虫の食害、動物の食害等がある。昆虫や動物の食害が連年にわたって継続することは少なく、微生物による持続的な病害を受けた場合の樹体のストレスが最も大きく、かつ深刻であろう。既述したように、本調査地域においてはてんぐ巣病、枝がんしゅ病などの子のう菌類による病害が多数発生しており、多くの個体の樹勢が衰退している。これらの病害が環境要因に起因する各種のストレスによる樹勢衰退に誘発されて発現したのか、それとも樹勢に関係なく罹病したのかはさだかではない。すくなくともてんぐ巣病に非抵抗性のソメイヨシノでは樹勢に関係なく初期感染が起こったと考えざるを得ない。きわめて健全な若齢のソメイヨシノでもすでにてんぐ巣病の罹病枝が散見されることからも明らかである。

 てんぐ巣病の感染拡大を防ぐには罹病枝を基部から切除しなければならない。切除は感染の初期であればあるほどよい。切除した枝断面には抗菌・防菌塗布剤で事後処置を施す。切除したままの放置では切断面からの担子菌類の侵入を招き、大枝全体の枯損、さらには樹幹の枯損につながる。樹木の樹勢衰退はひとつのストレスのみで生起することはまれであると考えられ、多くの場合、各種のストレスが複合的・相乗的に作用して徐々に樹勢を衰退させるものである。病害菌の侵入と罹患部の拡大は、樹体の生理的ストレスと相補的に進行するのが通例である。衰退した樹勢の回復には総合的なストレス解除が必要であろう。

 調査地域には人為的要因に基づくと思われる樹幹や枝の傷害部や枝の折損も多数見受けられ、明らかに担子菌類の侵入を誘引したと見られる枯損が目に付く。樹幹の歩道に面した側や、歩道の上に張り出した枝の傷のほとんどは作業用自動車によって作られたものとみなされる。樹幹や枝に作られた傷害はただちに抗菌・防菌保護剤を塗布して病原菌の侵入を防ぐことである。また、疏水沿いのフェンス改修工事のために過半の太根を切除されて樹勢の衰退したヤマザクラもある。今後はサクラ類を保護するためにも工事方法を再考する必要がある。

 以上のように山科疏水のサクラ類は、ソメイヨシノではてんぐ巣病や枝がんしゅ病が樹勢衰退を誘発する一次要因になっており、微生物病害の発現していないソメイヨシノやヤマザクラでは土壌環境の悪化、踏圧、高木による被圧などのストレスによって樹勢が衰退していると考えられる。なお、枯損枝や折損枝を切除したまま抗菌・防菌塗布剤による事後処置を怠った場合には、切断面からの木材腐朽菌類の侵入を招き、枝の心材腐朽が樹幹心材の腐朽へと進展していくことは確実である。


 樹勢衰退の徴候: (以下、省略)
(1)葉の大きさと葉量(着生密度)
(2)枝の連年伸長量
(3)樹幹の年輪解析
(4)木材腐朽菌きのこの発生

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